あらすじ:女たらしの映画監督、やきもち焼きの夫、刑務所から出てきて間もないホットドッグ屋、強盗に失敗した少年など、現代の大都会で事情を抱える11人の男女と1匹の犬。午後5時から5時11分まで、わずか11分の間にそれぞれの人生が絡み合い……。(シネマトゥデイ)
製作国:ポーランド / アイルランド 上映時間:81分 製作年:2015年
監督・プロデューサー・脚本:イエジー・スコリモスキ
キャスト:リチャード・ドーマー / ヴォイチェフ・メツファルドフスキ / パウリナ・ハプコ / アンジェイ・ヒラ / ダヴィッド・オグロドニック / アガタ・ブゼク / ピョートル・グロヴァツキ / アンナ・マリア・ブチェク / ヤン・ノヴィツキ / ウカシュ・シコラ / イフィ・ウデ / マテウシュ・コシチュキェヴィチ / グラジナ・ブウェンツカ=コルスカ / ヤヌシュ・ハビョル 等
ベテラン監督が見せる意外な一作!?
本年度ベネチア国際映画祭 生涯功労金獅子賞を受賞したイエジー・スコリモフスキ監督。御歳78歳。【アンナと過ごした4日間】【エッセンシャル・キリング】など計14作品を撮ってますが、僕はこの【イレブンミニッツ】がスコリモフスキ監督作初鑑賞になります。いく人かの17時から17時11分の『11分間』で魅せる群像劇。感想は、
お〜、ある意味感覚が若い!?
正直ちょっと意外でした。なんとなく群像劇ってことは事前に予告から伝わって来たし、劇中出て来るメンツがガチガチっと連鎖して繋がって行くんだけど、その繋がったラストの展開がモロ人気映画シリーズのオープニングを彷彿とさせ、
え、マジか!?
と驚きがありました。その作品のネタバレになるので名前は伏せますが、あの劇場全体が呆然としてしまう空気感が印象的でした。
群像劇からのラストの着地への意外さとベテランの老監督がこれをやりたかったのか!?と思わせる意外さがある意味売りのポイントなのかな?それが受け取り側としては吉と出るか?凶と出るか?賛否ある作品だと思います。どっちの立場かは後に書きます。
群像劇のクオリティ
本作はそれぞれの『11分間』の物語を切り分けて見せるオムニバス形式ではなく、ガッツリな『群像劇』真っ向勝負って感じの作品でした。唐突にストーリーが始まり、会話や流れる画から徐々にそれぞれの素性や関係が明かされて行く。
各人物のストーリーを他の群像劇作品より1テンポ短い時間で小出し小出しに展開し、わりと早い段階で前に登場した人物を他の人の話に登場させたり、伏線を感じさせる『謎』や音による不穏さの演出、決して説明し過ぎない見せ方などなど。
飽きさせず常に観るものの頭に『?』を抱えさせる引っ張る力とテクニックはベテラン監督の余裕を感じました。
『11分間』とタイトな時間ながらも、17時からの11分間をそのまま順を追って交互に見せるんじゃなく、その中でさらに時系列をツギハギにして見せてるのが興味深かった。先に見た出来事がその後見せられる話より前の出来事だったり。
と言ってもタイトルが【イレブン・ミニッツ】の割りにはタイムリミット的なハラハラはあまり無く『11分間』はそこまで重要じゃない。
というか監督自身が『11分間』に固執して無く、人間がある1点へと偶然にも集約して繋がって行くプロセスを重視しているように思えた。
結果、吉か凶かで言えば『凶』
『凶』と言っても決してダメでつまらない作品ではなく、どちらかと言えば自分には「こりゃすげーわ!」と満足行くような作品ではなかった。それは敢えて狙っているであろうインパクト重視のラストが原因かなと。あのラストの展開のせいで、
結局ラストまでは壮大な前フリじゃん!?
と思ってしまった。長いことかけて壮大な前フリをかました後、ピタゴラスイッチのように要素要素が磁石のように繋がって、全てを引きずり込んで行く。
呆然と目の前で繰り広げられる出来事を視覚で受け入れ、それが『快感』と脳に伝わる前に終わられちゃって、『老監督のやってやったぜ!感』が前半に積み上げた群像劇をちょっと拍子抜けさせるような見え方になってしまった。
それに加えて肝心のラストの展開が既視感あるものだったのが、なんとも勿体ない。
これが若干19歳くらいの新進気鋭の若手が、好きなホラー映画とか群像劇の要素を入れ込んだ『俺の作る群像劇』として撮った作品なら「お〜、なんか頑張ってるな〜!」と、出来は荒削りだけど熱意は伝わって来るし、好感触に感じられるんだろうけど。それなりに有名な老監督の新作がこれってちょっとどうなのかな?とは思ってしまう。
群像劇としては好きなテイストなんだけど、結局オチの展開に結びついて来ない何人かの人物の設定が浅く取ってつけたように感じてしまったし、意味深なモニターや謎の飛行物体の件・鳩が部屋に飛び込んで来るくだり然り別にラストに繋がる訳でもなく、単に観客を飽きさせない為のギミックに過ぎなかったなと。
同じような設定で撮らせらたもっと上手い監督は何人もいそうですね。
でも『群像劇』というフォーマットに乗っている作品なので、ある程度『群像』の部分では楽しめる作品だと思います!
まとめ
良かった点
- 語り過ぎずスマートで大人な群像劇
- シャボン玉や低空で飛ぶ飛行機などの差し込まれる画と不穏な音による演出
- ラストの展開は画として好物なのでもう一度観たい
悪かった点
- インパクト重視のラストが終盤までの群像劇を逆に前フリ的な見え方にしてしまった
- 伏線なのかな?と思っていた要素があまり意味のあるもので無かった、観客を惹かせるそれっぽい要素としてのギミック的な扱い
- 監督を打ち出した宣伝のせいで若干上がったハードル
評価:★★★ 普通に楽しめました。
名のあるベテラン監督とかそういうの関係なく、過度な期待さえしなければ楽しめると思います!群像劇の要素でエロスで物語を引っ張るってのは良いなと思いました。じりじりと女優に詰め寄るエロ映画監督ね。あれがなきゃ単に退屈よ。
[ 予告編 ]
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11:14
時間を意識した群像劇の良作。ちょっと作風は違うけどこの作品を思い出したりしました。個人的にはこっちの方が好き。
バンテージ・ポイント
作風や人物の見せ方として似ているのはこの作品かな。【バンテージ・ポイント】はよりエンタメ作に振り切っているので楽しみやすいし結構好きな作品。
その土曜日、7時58分
老監督が送る『時系列操作モノ』っていう部分ではこの作品も彷彿とさせる。シドニー・ルメットの遺作。
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