あらすじ:1950年代、黒人のアーティストたちが中心だったモダンジャズ界へと飛び込んだ、白人のトランペッターでボーカリストのチェット・ベイカー(イーサン・ホーク)。優しい歌声と甘いマスクで人気を博した彼は、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」などの名曲を放つ。しかし、ドラッグに溺れて破滅的な生活を送るようになる。そんな中、自身の人生を追い掛けた映画への出演を機にある女性と遭遇。彼女を支えにして、再起を図ろうとする彼だったが……。(シネマトゥデイ)
製作国:イギリス / カナダ / アメリカ 上映時間:97分 製作年:2015年
監督・脚本:ロバート・バトロー
キャスト:イーサン・ホーク / カルメン・イジョゴ / カラム・キース・レニー 等
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音楽に生きる男の生き様!
なんか観るもん無いかな〜と思っていた時に、ブログの下書き用に使っているレビューアプリ『Filmarks』で評価がそれなりに良かった、伝説的トランペット奏者チェット・ベイカーの伝記映画【ブルーに生まれついて】を発見。
そう言えばこの映画、好きな俳優イーサン・ホーク主演だったなと思い出し観てきました。ラストの結末はネタバレしてませんが、それなりに踏み込んでいる感想は、
かなり良かった!!!
観る前まで若干舐めてました… すみません!大人でタイトで良質な音楽映画であり、1人の不器用な男の恋愛映画でもあった。
JAZZは特に詳しく無いんだけど、チェット・ベイカーという名前は聞いたことあって。高校の受験勉強のBGMでよくコンポでかけていたのが、当時100円均一で買った彼のCDという事はどうでもイイんだけど、たまにJAZZのコンピを聴いたりするくらいのJAZZとの距離感。
本作は、黒人が主流だった業界に突如現れた白人で甘い声のカリスマ的トランペッターのチェット・ベイカー、彼の再起と葛藤を描いた物語だ。
彼が一躍有名になりその後、ドラッグに溺れて落ちぶれたところからこの始まる物語は始まる。栄光の時代を描いた伝記映画を作らないかと映画の話を持ちかけられ、自らが主演を務める伝記映画の撮影に入るチェット。
そこで妻役を演じた女優ジェーンと出会い、彼女と親密になった矢先、金を踏み倒していたドラッグディーラーの連中に絡まれ、前歯を全部折られ顎を砕かられてしまう。
トランペット奏者にとって大事な口に大きな怪我を負ったものの彼は諦めなかった。ジェーンと共に片田舎で再起を掛けたリハビリの日々が始まる。
回想の使い方とドラッグとの関係
本作の作りとして印象的だったのは、彼が時たま振り返る『過去の栄光の回想シーン』を、顎を砕かれる前まで撮っていたモノクロの自伝映画を用いて見せる点だ。
単に年代を遡るオーソドックスな回想の見せ方では無く、いかにも回想然としたモノクロ映像が幻想のようで、当時の妻の姿も今の最愛の女性ジェーンに全て塗り替えられている。昔から彼女とずっと一緒にいたように。
怪我を負ってトランペットが上手く吹けなくて精神が弱ってる序盤に、特に回想シーンが多く見られるのは、恐らく抜けきってない薬物のフラッシュバック的な意味合いもあるんだろう。
その証拠にジェーンの献身的な支えの甲斐もあり、ドラッグが身体から抜けて行くと、回想シーンも自ずと減って行く。
そこから見えて来るのは、チェットにとってドラッグの抑制に効いていたのは、実のところヘロインの禁断症状を抑制する『メタドン』ではなく、彼女の存在そのものなのだろう。
そして最後に観る回想シーンのタイミングも、やはりドラッグが関係して来る。
画の良さに気持ちよく乗るJAZZ
まだ顎が完治してない状態で合わない義歯(入れ歯)を口に入れ、バスタブでトランペットを痛々しく吹くチェット。
今までのように上手く吹けるはずも無く、口から溢れた血がトランペットの先からこぼれ、彼の過去の栄光や実力が血と共に流れ出て行ってしまうように見える。そんな状態でも火の付いたタバコを震える手で持ちながら不器用にトランペットを吹くんもんだから、カッケーって!
オープニングやそのバスタブの場面などのケレン味あるシーン然り、本作は『画になる』シーンが意外と多くて、音楽を題材としながらも目でも楽しめる。
ジェーンの支えと共に片田舎の大自然の中、懸命に練習をするチェットの哀愁漂う枯れた姿がまた画になる!トランペットに一から向き合うように、大自然のパワーを吸収するかのように、来る日も来る日もトランペットを吹き続ける。
タイトルにもある『ブルー』をポイントに配色した画作りに、浜辺の夕陽や、夜にタバコの火を付け顔が一瞬照らされるシーン、ジェーンとイチャつく部屋の明かりなど、温かい暖色系の色をホワっと入れるバランスも素敵で。終始そこに良さげなJAZZなBGMが乗るんだから、そりゃ文句無しにイイじゃんか!
しかも【リトル・ミス・サンシャイン】ばりにワーゲンバスが出るんだから抜かりない。あっちは黄色でこっちはブルー!このワーゲンバスがまた映画的に雰囲気良く見えるんだよね。本作、車を運転するシーンもイイ!
イーサン・ホークの好演!
実際チェット・ベイカーがどんな人かは知らないけど、僕の目にはちゃんとイーサン・ホーク=チェット・ベイカーに映っていた。6ヶ月に及ぶトランペットと歌のトレーニングの説得力も相まって、ダメ男なんだけど不器用ながらも音楽に直向きな姿勢を見せる味のある人物に仕上がっていた。
「2秒だけ待って」とか、ジェーンを口説く際や同じトランペット仲間のディジーを説得する際の強引さを見せたかと思うと、べったりとジェーンに甘えたり。
まだ売れる前に「マイルス、西海岸にお前を食う存在がここにいるぞ」と強気な発言も、彼の並々ならぬ音楽への情熱と自信を感じた。イーサン・ホーク出演作の中でもかなりのハマり役だったんじゃないかな。
ジェーンを演じたカルメン・イジョゴも良かったですね!エドワード・ノートン主演作【25時】のロザリオ・ドーソンを彷彿させる、茶色の肌でダメ男を献身的に支えるセクシーなイイ女感。イイですね〜!
奇しくもイーサン・ホークが主演を務めたホラー映画【パージ】。その続編【パージ:アナーキー】にカルメン・イジョゴが出演していたという、不思議な関係も後になって分かったり。2人の相性も良かったですね。
ラストの演奏シーンに痺れる!
終盤、チェットが再起を掛ける大舞台での演奏シーンがあるんだけど、ここはかなり見所となっていた。スポ根ドラム映画【セッション】のラストシーンに匹敵するくらい?って言っちゃうと大げさかもしれないけど。
JAZZ界の大御所マイルス・デイヴィスも見に来てるもんだから、緊張感が一気に高まる。世間はチェットは完全に終わった存在だと思ってて、ここでダメなら2度と大舞台には立てないだろう。
本作マイルスのキャラも良くて、見るからに業界の『帝王』的な威圧感が怖い!実力はナンバー1で尚且つストイック。白人のチェットを良く思ってなくて「女と金のために演奏しているヤツは信用しない」みたいなセリフも飛びたしたりする。このセリフが後で効いて来るんだけど。
個人的にはチェットとマイルスの関係は、窪塚洋介主演作【ピンポン】のペコとドラゴンの関係を思い出したりしました。
チェットが窪塚演じるペコ。カリスマ的な存在が一度挫折しカムバックしようとする立場で、マイルスが中村獅童演じるストイックなドラゴンというか。演奏なので2人の直接対決って訳じゃなんだけど、大舞台での演奏は人生を掛ける試合と言っても良い。
このラストの演奏シーンで、今まで観て来た彼の姿が走馬灯のようにフラッシュバックし、色々な積み重ねがこの一点で集約する。その瞬間チェット・ベイカーという男の『ブルー』な生き様が現れ、声にならない彼の想いがトランペットの音色に乗る。
音楽・JAZZに生きた男の再起の物語!意外な良作だったので、是非とも劇場で観て欲しいですね。
まとめ
評価:★★★★★ 最高!フォーー!
イーサン・ホークが好きなのもあり、かなり刺さったし、素直に面白かったです!ここに来てこんな作品がまだあったとは… JAZZに詳しくなくても楽しめる作品です。
ただ後になって分かったのが、本作結構フィクショナルな部分が多いみたいですね。チェット・ベイカーの半生にインスパイアされて出来たオマージュ的な作品という方が正しいのかな。
でもそういうフィクショナルな部分から彼の人間性を浮かび上がらせ、こうして胸を打つ1本の作品として落とし込めた事は、それはそれで凄いことだなと。きっと予告を観たら本編が観たくなるはず。
[ 予告編 ]
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セッション
どうしても思い出してしまう作品ですね。個人的には【セッション】より好きかも。
25時
こちらもヘロインとダメ男と良い女。この前DVD買っちゃいました。
パージ & パージ:アナーキー