映画『沈黙 サイレンス』評価/ネタバレあり感想
あらすじ:江戸幕府によるキリシタン弾圧が激しさを増していた17世紀。長崎で宣教師のフェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕まって棄教したとの知らせを受けた彼の弟子ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライヴァー)は、キチジロー(窪塚洋介)の協力で日本に潜入する。その後彼らは、隠れキリシタンと呼ばれる人々と出会い……。(シネマトゥデイ)
製作国:アメリカ 上映時間:162分 製作年:2016年
監督:マーティン・スコセッシ 原作:遠藤周作
キャスト:アンドリュー・ガーフィールド / リーアム・ニーソン / アダム・ドライヴァー / 窪塚洋介 / 浅野忠信 / イッセー尾形 / 塚本晋也 / 小松菜奈 / 加瀬亮 / 笈田ヨシ 等
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どうも、アバウト男です!
今回は【タクシードライバー】【グッドフェローズ】【ディパーテッド】【ウルフ・オブ・ウォールストリート】などの傑作・良作をガンガン生み出して行く巨匠:マーティン・スコセッシが、遠藤周作の小説を映画化した【沈黙 サイレンス】を観てきました。
原作は未読。今回はラストの結末はネタバレしてませんが、ところどころ内容に踏み込んでいます。
キリシタン弾圧が厳しかった長崎で、神父の師であるフェレイラが棄教(信仰を捨てること)し日本で暮らしている事を聞きいた弟子のロドリゴとガルペは、真相を探りに長崎へ上陸する。そこで見た隠れキリシタンの苦悩と惨状を目の当たりにする。
スコセッシの思い入れが伝わって来る作品
まず率直な感想は、
....................................、思わず黙っちゃうわ!
目の前で起こる苦しい展開や描写の数々に、思わず息がつまり胸が締め付けられ、ただただ見守ることしかできないような映画でした。まぁ重苦しい。そして濃厚!
今までのスコセッシ作品を全て見ている訳じゃないけど、原作に惚れ込んで映像化しようと思ってから28年歳月を経てようやく映画化できただけあって、凄く誠実に真面目に作品に向き合ってる印象を受けた。
遠藤周作リスペクト!というか憧れ込みでヘマできないといった、監督からにじみ出る緊張感がいい形で作品にも乗っていて、今までにないタッチの力作でした。
ちょっと長いなとは思ったけど面白かったです!
終わりー!言葉が出ない。
と締めたいところだけど、色々ガツンと『来る』ものもあったので、それについて書こうと思います。
強烈な信仰の力と処刑
何と言ってもこの作品を観て「信仰の力ってこれ程のものなのか...」と思い知らされました。自分は無宗教だし何かにすがるみたいな事はないんだけど、信徒(隠れキリシタン)は棄教するくらいなら死も厭わない人もいて。
社会の授業で習った、あの『踏み絵』をさせて信徒かどうか見極めるんだけど、やっぱりキリストの絵が刻印された板を踏めなくて。踏めたとしても、さらに「十字架に唾を吐き罵声を浴びせろ」と詰め寄られ、結局それができなくて信徒は処刑される道を選ぶ。
それはやっても良いだろう...
「一応この場では『踏み絵』は踏むし唾も吐き掛けるけど、ちゃんと真っ当に生きてに信仰心を捨てなければOKじゃないか?」と、現代に生きる僕から見たらそう思っちゃうんだけど、違うんでしょうね。そんな甘い考えじゃ救われない。神は常に見ていて信徒を試している。
それに村という閉塞的な環境もあるんだろうな。集団だからこそ人の目を気にしてヤワな信仰心を見せられなかったり。そういう意味では窪塚洋介演じるキチジローの立ち回りは、あの作品内で見れば、弱い男なんだけど、同じ人間としては嫌いになれないですよね。
とにかく今の時代でこうしてヌルくブログが書けてる事に感謝したいくらい、過酷な状況でしたね。比べるのもアレだけど『親の写真』を泥の付いた靴で踏むのでもキツイしね。信徒じゃなくても『踏み絵』のキツさが分からないこともない。
その『信仰心の強さ』と合わせて印象的だったのが、劇中見せられる日本特有の拷問&処刑方法。洋画に出てくるようなひと思いに即死させるようなやり方じゃなく、『じわじわ』と苦痛を与えるタイプのキツイものばかり。なんかいかにも日本ぽい…
例えば、熱湯を少しづつ繰り返し浴びせる、波が押し寄せる海岸に張り付けにして溺れ死ぬまで放置する、血がしたたるように首に小さく穴を開け逆さ吊りにして死を実感させる、藁を巻いて火を付けたり海に落とすなど。
普段あまり見られないゴアなしの処刑描写が観れたのは新鮮だったけど、同じ日本人として嫌〜な殺し方はするなぁ…とゲンナリしました。焼死がなにげ一番キツいって言うしね。
このキツい処刑が皮肉な事に『信仰を捨てずに処刑を受け入れる=それだけその人の信仰心の強さの証明』にも少なからず見えてしまっていて、信徒は仲間の死にゆく姿見てより信仰心を深め神にすがるようになり、その人の分まで何とか隠し生きようとする。
それが結果的に宗教弾圧をもっと強めることにもなり、負のサイクルが出来上がる。
絶望的に相容れない価値観
前半は『信徒だとバレたら殺される』異国の危険地域に、師の安否を確かめに乗り込んでいく若い神父2人が巻き込まれる、ある種スリリングなホラー映画の雰囲気もあって、スッと作品内に入っていけた。
タイトルから想像してたよりも、堅苦しい内容じゃ無かったし、クスッとさせるシーンもチラホラ見られて、スコセッシ監督作ぽさを感じました。
後半からは、見つかってしまった神父ロドリゴと、キリシタン弾圧を指揮する幕府の井上との心理バトルがメインとなる。心理バトルといっても井上の精神的な攻撃や誘惑・追い詰めに対して、ロドリゴが棄教せずにいられるかの戦い。
ここで面白いなと思ったのは、神父を殺さないんだよね。殺してしまえばお終いと思うけど、一応井上の考えとしては『信徒と減らすよりも、その根源である神父を絶つ』ってことで、あくまでも殺さず棄教させるようとする。
これは神父が棄教することで、日本では『キリスト教は絶対的に根付かない』という事を、これから来るであろう宣教師や、隠れている信徒達に知らしめる効果もあって。
このイッセー尾形演じる井上は、分かりやすい残虐性は見せないまでも、人の心理を突くのが上手い策士で、異様な存在感を放つ人物でした。彼も彼で日本のためにやっていて、露骨な悪役ってことでもなんですよね、そこがもどかしくもある。
劇中『神父が棄教する』ことを『転ぶ』という言い方をしてたけど、あらゆる手段を使ってロドリゴを転ばそうする井上。
ロドリゴも信徒の死や犠牲を痛いほど目の当たりにしてる分、『棄教=あらゆるモノへの裏切り』として首を絞め、どうにもならない極地まで追い込まれていく。
井上の所業はさながら、信仰の『心を折る』マインドコントロールのよう。本人を傷つけず周りから攻めるとか、なかなかエグい事やってたんだなと。一切の容赦がない!
閉じた国:日本の他を受け入れない当時の姿勢、相容れない価値観など、絶望な埋められない距離を感じました。
どっちが悪いとか勝ち負けじゃなく、ロドリゴが辿る末路は、彼が数々の仕打ちを受ける中で達した新たな境地なのだろうか。それとも信仰ではとても抗えない、大切な何かに気付いたからだろうか。
個人的には、あの『声』は直接的過ぎじゃないかな?とも思ったけど。
キャスト陣の好演
鬱陶しくまとわりつくハエのようなねちっこさが印象的だった井上を演じたイッセー尾形を筆頭に、オーディションを受けて出演に勝ち取った日本人キャストもみんな良かったな!
特に一番人間味があって『踏み絵』もすぐ踏んでしまうキチジローを演じた窪塚洋介の狡い小物感。体つきから姿勢や動きや眼差しまで、窪塚の『体の使い方』『身のこなし』に見惚れてしまう。
あ、ついにハリウッドに窪塚洋介が見つかってしまった!!
と思うくらい、本作キーとなる役どころを見事に演じ切り、ハリウッドにもインパクトを残したはずだ。渡辺謙・浅野忠信に次いで、これから窪塚のネクストレベルな活躍に期待!
モキチを演じた塚本さんも良かったし、EXILEのAKIRAも「あら、意外にも!?」と思わせる作品の馴染みっぷり。小松菜奈も少ない出番ながらもシッカリと印象を残してました。さすがの浅野忠信に、加瀬亮はかなり美味しい役!
あと主演のアンドリュー・ガーフィールドの熱演も素晴らしい。彼が主演と知った時には「なんで?」と軽く舐めてたんだけど、内に秘める意志の強さと、人を放って置けない慈悲深さが抜群にハマってて、改めて見ると彼じゃなきゃならなかったですね。
こう思わせるのも全てスコセッシの演出力なんだろうな。
日本描写と音
悲惨な状況に反し、雄大な自然に囲まれた未開の地のロケーションが美しかった。ロケ地が台湾なだけあって、日本のようでどこか絶妙に日本じゃない雰囲気が『今では現実味がない話』とマッチしていたと思います。先の見えない霧が立ち込めるシーンなんかも、演出として効いていて。
振り返った時に「これって外国の監督が撮った時代劇だ」ということを忘れる違和感なのない日本描写にも驚く。よく外国映画で描かれるトンデモ日本描写は、今回全然なくて、セットからロケーション・服装・美術とかなり、細部まで気を遣ってるように感じました。
隠れてキリシタンと言うとで、日本人も多少英語を喋れれる設定も納得できるし、全体的に無理がない。さすが巨匠!
削ぎ落とさらた『音』の使い方も効果的でしたね。いわゆる劇伴があまり使われなくて、虫が飛ぶ音、波の音、そして耳をつんざく悲鳴と、音の1つ1つが際立つ作りになっていて、3Dとは違う妙な臨場感を生んでいた。自分も影からその様子を見ているような感覚。
それでいて、叫び声さえも無音にして画だけで感情を煽り立てる演出にもグッと来てしまった。
尿意を心配する162分と長尺でありつつ、物語に入り込んでるのでそこまで気にならないかな。短くて端折った内容で物足りないよりかは全然イイ!
個人的にはもっと三池崇史監督作【十三人の刺客】ばりに残虐な仕打ちの数々や、心を引き裂かれる展開を期待していたんだけど、あくまでも小説の映画化なので、そこは忠実に作られてるじゃないでしょうか。それでも十分苦しいです!
まとめ
評価:★★★★ 結構良かったぜ!
スコセッシ監督ってのもあるし、ハリウッドのバジェットもあるし、これを日本でこのレベルで作るのは無理ですね。『巨匠スコセッシが本気で魅せる時代劇』という意味でも、観て損はしない作品だと思います!ありがとうスコセッシ!
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言い忘れたけどアダム・ドライヴァーも良かったよ!